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東京地方裁判所 平成2年(ワ)8000号 判決

原告

原口隆

被告

東新トレーラーエキスプレス株式会社

右代表者代表取締役

高取良雄

右訴訟代理人弁護士

清水三七雄

井上智治

長尾節之

千原曜

荒竹純一

野中信敬

野末寿一

久保田理子

主文

一  原告の本件訴えのうち、労働契約上の地位確認請求及び金員支払請求を除く請求部分をいずれも却下する。

二  原告の労働契約上の地位確認請求及び金員支払請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の申立て

一  請求の趣旨

1  原告と被告との間の別紙(略)記載一の労働条件(平成元年四月一〇日合意)、被告が原告に示した就業規則(平成二年六月二三日交付)及び別紙記載二の労働条件(同年六月二五日交付)は、被告が平成元年四月一〇日から平成二年六月二九日の間に効力ありとして所轄監督署に届け出ている労働条件の定めに達しない又は原告に不利益な賃金の決定方法及び支払方法の事項に関して無効であることを確認する。

2  被告が、平成元年四月一〇日から現在までの間に原告に対し時間外労働を課すに際して労基法三六条の労働者の過半数を代表する者を選出することをしないこと及びそれにもかかわらず被告が原告に対し時間外労働を課したこと並びに被告が原告の平成元年九月分ないし平成二年六月分の各給料に時間外手当(時間数×一〇〇〇円)を算入し、これに被告の労働保険料率を乗じて二分した金額を原告の当該月の給料から雇用保険料の名目で控除したことは、いずれも違法であることを確認する。

3  原告が被告に対し労働契約上の地位を有することを確認する。

4  被告は原告に対し、一〇二万七〇〇円及びこれに対する平成二年六月三〇日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

5  訴訟費用は被告の負担とする。

6  第4項につき仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二事案の概要

一  争いのない前提事実

1  被告は、従業員一〇〇名ほどを使用して運送業を営む会社であり、原告は、平成元年四月一〇日に被告に雇用され、有明営業所フェリー課のトレーラー運転手として勤務してきたものである。

2  被告は、平成二年六月二三日、原告に対し、同月三〇日付をもって解雇する旨の意思表示をした。

二  原告の主張

1  原告と被告との間の労働契約締結にあたり、別紙記載一のとおりの労働条件が合意された。ところが被告は、原告に対し、賃金として、平成元年四月分から八月分までは日給月給制で一日七〇〇〇円の出勤日数の割合で、同年九月分から一一月分まで及び平成二年一月分は完全月給制で月一〇万二七〇〇円を、平成元年一二月分及び平成二年二月分から六月分までは月給日給制で月一〇万二七〇〇円(六月は一〇万五二〇〇円)を二五日で割った額の出勤日数分を、それぞれ支払ったにすぎない。そこで原告は、就業規則などの労働条件の明示を求めたところ、被告は、同年六月二三日就業規則を、同月二五日別紙記載二のとおりの労働条件を明示し、これが右支払当時の労働条件であると説明したが、その当時に明示していたわけではなく、また就業規則の周知をすることもなく原告を就労させており、労基法一五条一項及び一〇六条に違反している。

2  被告は、平成元年四月一〇日から平成二年六月二九日までの間、原告に対し、一か月一九・五時間ないし一〇六時間の時間外労働を課し、また、平成元年九月から平成二年六月までの間、原告の給料から雇用保険料として一か月一一四〇円ないし二三四〇円を控除した。しかし被告は、右時間外労働を課すにあたり、労働者の過半数を代表するものを選出していないから、労基法三六条に違反している。

3  被告のした原告に対する平成二年六月三〇日付をもって解雇する旨の意思表示は、つぎのとおり無効である。

被告は、前記のとおり、これまで原告に対して就業規則の内容を説明しようとしなかったにもかかわらず、解雇予告に際してはじめて就業規則違反を持出したものである。被告は、平成二年五月一〇日から六月二七日にかけて大東運輸から五回にわたり荷の運送を引き受けたが、自動車運送事業等運輸規則四四条の二に定める過積載防止の義務を負うにもかかわらず、原告に対し、その都度過積載の運送を指示した。その一回目(五月一〇日)、二回目(五月一四日)の運送については原告がこれを拒否したところ、被告は過積載にならない他の仕事に変更したが、三回目(六月一六日)の運送については被告は過積載にあたらないとの説明をして原告に運送を実行させ、四回目(六月二三日)の運送については原告がこれを拒否したところ、被告の指示を受けた他の運転手が過積載の運送を実行し、原告はこの後前記のとおり解雇を予告された。そして、五回目(六月二七日)の運送については原告が過積載の運送を拒否したところ、被告の運行管理者は「もう仕事をしなくていい。」と告げたが、原告の通報により現場に来合わせた警察官が荷送人と原告に対し過積載運送をしてはならないと命じたので、原告は牽引車のみで帰社した。その翌日に原告は被告から解雇予告書を受領した。

以上のとおりであるから、被告は、過積載運行による違法な収益を受け続けられるようにするため、一方的に原告を解雇したものである。

なお、原告は、被告が本件訴訟で主張しているほどに欠勤をしていない。土曜日も休日であり、土・日曜日以外に一か月で二日間の休暇は被告も承諾しており、平成二年一月九日、一〇日は公務署から呼出を受けたので勤務日から除外されるべきである。したがって、同年二月一九日から三月九日にかけて連続して休んだ期間のうち、欠勤となるのは一五日間である。また、平成元年七月一〇日から八月六日にかけて連続して休んだが、そのうち欠勤となるのは二〇日間である。被告は、受注業務に相応する認可車両(牽引車)を関東運輸局等から受け、自動車運送事業等運輸規則に基づき一牽引車に一人の運転手を当てる方法を選択したのであり、原告が全出勤日を稼働することが被告の受注業務の消化の必要要件とするなら、被告において稼働率アップという命題は存在しないことになる。

4(1)  被告が以上の経緯で一方的に原告を解雇しようとしたのは原告の働く権利を違法に侵害したものであるから、これによって受けた原告の損害として慰謝料一〇〇万円を支払う義務がある。

(2)  被告は、平成元年九月分から平成二年五月分の給料から毎月二三〇〇円の割合で合計二万七〇〇円を勝手に控除したため、原告はいまだその間の右同額の賃金の支払を受けていない。

(3)  そこで被告は原告に対し、(1)の慰謝料一〇〇万円及び(2)の賃金二万七〇〇円並びにこれらに対する遅滞後の平成二年六月三〇日から支払い済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

5  よって、原告は被告に対し、請求の趣旨第1ないし4項のとおりの判決を求める。

三  被告の主張

1  被告は原告を雇用するにあたり、別紙記載二のとおり賃金・労働時間等の労働条件の重要部分について説明したが、原告は、平成元年四月入社以後、四月は一日、六月は三日間、七月は一九日間、八月は六日間、九月は二日間、一〇月は四日間、一一月は二日間、一二月は一日、平成二年一月は四日間、二月は九日間、三月は八日間、四月は五日間、五月は五日間欠勤し、他の従業員に比して著しく欠勤が多く、その理由を質しても単に個人的理由であると答えるだけで、その対応に誠意がみられず、就業状況が著しく不良の状態が長期にわたって継続していた。

2  被告は、大型トレーラーによる運送業を営んでおり、限られた輸送車両の可及的稼働率アップが経営上の最重要課題となっている。したがって、欠勤が多い従業員を抱えていると、必然的に輸送車両の休車状態が増し、売上の減少及び経費の増大につながるとともに、他の従業員の不信感及び顧客の被告に対するイメージの悪化をもたらすことになり、経営上極めて重大なマイナス要素となる。

3  そこで、被告は原告に対し、再三口頭で注意をし、ついに平成二年六月一日には戒告書で就業状況の改善を求める至ったが、その後も原告がこれに応ずる様子がなかったため、就業規則二九条三号及び四号に基づき、同月三〇日付をもって解雇する旨の意思表示をした。そして被告は、同年七月五日、解雇予告手当一か月分と平成二年六月分の給料の支払を提供したが、原告は右六月分の給料を受領しただけで、解雇予告手当の受領を拒否した。なお、従前の支払賃金の内訳明細は別紙記載二(略)のとおりである。

4  以上のとおり、原告はすでに従業員の地位を失っているから、請求の趣旨第1項は確認の利益を欠き、請求の趣旨第3、4項は理由がない。また、請求の趣旨第2項は、過去の事実の確認を求めるものであるから、確認の利益がない。

四  中心的な争点

原告の欠勤状況及びこれを理由とする被告の解雇の意思表示の効力

第三争点に対する判断

一  原告の欠勤の状況については、証拠(〈証拠略〉)によれば、つぎの事実が認められる。

1  被告の専務取締役小野泰弘は、平成元年四月一〇日、原告に対し、本採用後の雇用条件として、固定給、時間外手当等諸手当の金額を説明し、休日は日曜、祝日、一二月三一日、一月二、三日の他に毎月各土曜日のうち原告の希望する土曜日一日とし、有給休暇は次年度から六日、その翌年から毎年一日ずつ加算すること、当初の三か月間は試用期間とし、日給月給とすることを告げた。その際、原告から、最初一年間ほどは毎月二日間位個人的事情で休暇を別途に取りたいとの申出があり、小野は、現場の業務責任者に事前に申告してその了解を取りさえすれば欠勤してもかまわないと答えた。

2  原告は、試用期間中の四月から六月までは合計四日間の欠勤に過ぎなかったが、七月一〇日から八月五日までの間は、個人的事情で休職する旨の届出をその約一週間前に現場責任者に提出しただけで連続して休み、その後の平成元年九月には合計二日間、一〇月には合計四日間、一一月には合計二日間、一二月には一日欠勤したが、いずれも個人的事情によるとのみ告げていた。ところが、原告は、平成二年一月には合計四日間、二月一九日から三月九日までの間は連続して、四月には合計五日間、五月にも合計五日間、いずれも事前ではあるが個人的事情によるとのみ告げて欠勤した。

3  被告は、当時、運転者数と同数の車両を保有しており、その稼働率を高くすることは業務運営上重要課題であったところ、原告の勤務態度については、出勤している限りは特に不都合を感じていなかったが、欠勤日数につき他の運転手(合計約三〇名)がほとんど休暇をとらないで勤務しているのに較べて異常に多く、しかもその理由を尋ねても明らかにされなかったため、業務運営上このままでは支障があると判断し、原告に対し、平成二年六月一日、勤務態度の改善を求め、今後も改善されない場合は解雇もあり得る旨を記載した戒告書を郵送し、まもなく原告はこれを受領した。ところが原告は、これに前後して六月も一、二日、五日、六日、八日を具体的理由を示さないまま個人的事情ということで欠勤した。

4  被告会社の就業規則二九条には「従業員の就業状況が著しく不良で就業に適しないと認められる場合」(三号)、「その他、会社都合によりやむを得ない事由がある場合」(四号)に従業員を解雇することができる旨の規定があり、被告は平成二年六月二三日、右就業規則二九条三号、四号に基づき、本件解雇をし、同年七月五日、解雇予告手当一か月分と平成二年六月分の給料の支払を提供したが、原告は右六月分の給料を受領しただけで、解雇予告手当の受領を拒否した。

二  そこで、被告のした本件解雇について判断する。

1  前記認定事実によれば、原告は、特に平成二年一月から欠勤日数が多くなり、毎月土曜日のうちの一日分及び有給休暇六日分(ただし有給休暇請求権の取得日及び具体的行使日は本件全証拠によっても明確ではない)を除いても、また、毎月二日間位は個人的事情で欠勤することを被告が認めていることを考慮しても、他の運転手よりも著しく欠勤が多く、しかも具体的理由を明らかにしない個人的事情によるもので、被告から文書をもってその改善を求められたにもかかわらず、その後も同様に欠勤を重ねたのであるから、原告には就業規則二九条三号所定の「従業員の就業状況が著しく不良で就業に適しないと認められる場合」及び四号所定の「その他、会社都合によりやむを得ない事由がある場合」に当たるものというべきであり、したがって本件解雇は解雇理由があるものということができ、他に本件解雇を違法無効とすべき特段の事情は認められない。

2  ところで、前記のとおり、本件解雇は平成二年六月二三日に同月三〇日付をもって解雇する意思表示であって三〇日間の予告期間を置かれていなかったが、被告は同年七月五日に解雇予告手当を原告に適法に提供したから、原被告間の雇用契約は右の日に終了したものというべきである。

よって、原被告間の雇用契約の存続を前提とする労働契約存在確認請求及び本件解雇の違法を理由とする慰謝料請求は、いずれも理由がないから棄却すべきである。

三  原告の賃金支払請求について判断するに、被告は平成元年九月分から平成二年五月分の給料について各支払日に毎月二三〇〇円(合計二万七〇〇円)を賃金より控除していたが、二三〇〇円の内訳は旅行積立金二〇〇〇円、慶弔費三〇〇円であって、原告は少なくとも毎月の賃金支払明細書によってこれらの控除を承知したことが認められ(〈証拠略〉)、その間に原告が右控除に対し異議を述べた事実を認めるに足りる証拠はない。したがって、右控除は原被告間の合意によってされたものというべきである。

よって、右控除額と同額の賃金の未払いを理由とする原告の請求は理由がない。

四  なお、原告の請求の趣旨第1項にかかる労働条件無効確認請求の訴えは、原被告間の雇用関係が現に終了している以上、特段の事情がない限り(その主張立証はない)確認の利益を欠くものというべきであり、また、請求の趣旨第2項にかかる行為の違法確認請求の訴えは、単に過去の事実の確認を求めるものにすぎず、現在の法律関係に影響を及ぼす事情はうかがえないから、確認の利益を欠くものというべきである。

五  以上のとおりであるから、原告の労働契約確認請求及び慰謝料、賃金支払請求はいずれも理由がないから棄却し、その余の請求にかかる訴えはいずれも確認の利益がないから却下することとする。

(裁判官 遠藤賢治)

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